年越し






―― 12月31日 p.m.7:30 ――


「今年もあと4時間半だねぇ、黒たん」
「あぁ」
「年末だからテレビもいろいろ特番があるけどー、何見る?」
「おまえの好きにしろ」
「つれないなぁ、黒ぽんは‥‥って、なに1人でお酒飲もうとしてるのー。ずるいよー、オレも飲むー」
「ビールからな。ワインは少ねぇから最後までとっとけ」
「はーい。‥‥ねぇ黒りん、紅白と格闘技だったらどっち見るー?」
「だから好きにしろよ。俺ぁ別に興味ねぇ」
「えー?黒たん格闘技見ないの?絶対見ると思ってたのにー」
「他人の戦いなんざ見て、何が面白ぇんだ。俺が戦えるなら別だがな」
「そっかー。じゃー紅白にするねー」
「そのコーハクってのは何だ。変種の琥珀か?」
「え〜、知らないの?歌番組だよ、簡単に言うと」
「‥‥益々興味ねぇな」
「お笑いよりはマシでしょ?」
「まあな‥‥」





―― 12月31日 p.m.9:00 ――


「ごちそうさま。おいしかったねぇ、おそば」
「インスタントだがな‥‥」
「それは言わない約束でしょー」
「大体、なんで今日はおまえが作んなかったんだよ」
「大晦日だから、のんびりしてもいいでしょー?」
「‥‥メシ作るっつって大掃除押し付けたのはどこのどいつだ‥‥」
「んー、誰かなぁ」
「てめぇだ!!」
「うるさいよぉ黒んた。歌が聞こえないー」
「‥‥てめぇ、いつか必ず‥‥‥」
「ねー、黒んたは誰が好きー?」
「‥‥‥いきなり何の話だ」
「歌手。誰が好き?」
「興味ねぇっつってるだろ。強いて言えば演歌だな」
「うわー、黒様しぶーい」
「チャラチャラしたのは好きじゃねぇんだよ。おまえはどうなんだ?」
「んー?オレはあゆが好きだなー」
「‥‥女か?」
「うん。なんか、いいんだよねー」
「分からねぇな‥‥‥」
「ねぇ、紅と白どっちが勝つと思う?」
「‥‥話の転換がいきなりすぎるんだよてめぇは」
「紅白の話だって。どっちだと思う?」
「‥‥話が見えねぇんだが」
「あー。うーんとね、これ歌番組なんだけど、女の人が紅組、男の人が白組に分かれて、どっちがよりいい歌を歌うか競ってるんだよ」
「暇なもんだな‥‥」
「で、どっちが勝つと思う?」
「‥‥別にどっちでもいいだろ。俺には関係ねぇし、興味もねぇ」
「ね〜ぇ〜、どっちだとお〜も〜う〜?」
「いやに絡むな‥‥酒がまわってんのか?‥‥ってお前ワイン飲むんじゃねぇ!」
「答えてくれなきゃ全部飲んじゃうもんねー」
「チッ‥‥そこまで言うなら、賭けるか?どっちが勝つか」
「あー、いいねそれ。面白そう」
「負けたほうは勝ったほうの言うことに絶対従う。1つだけな」
「オッケー。じゃ、オレは紅が勝つのに賭けるー」
「俺は白だな。後から嘘つけねぇように紙に書いとくぜ」
「うん分かったー。 ‥‥‥黒様」
「なんだ?いきなり真剣そうな顔しやがって」
「ワイン1本飲んじゃった。ごめんねv」
「てめぇ――――っ!!」





―― 12月31日 p.m.11:30 ――


「この番組、長いな‥‥まだ終わんねぇのか?」
「もう少しだよぅ」
「よく飽きねぇな、歌ばっかで‥‥」
「ねー黒みん、これ片付けてー」
「‥‥『これ』ってのはどれだ」
「テーブルの上の缶とか瓶とかー」
「明らかに複数形だろうが!」
「‥‥‥いやー、ツッコミ所がズレてると思うんだけどー」
「うるせえ!自分の分くらい片付けろ!」
「え〜、お酒まわってるから、今歩いたら確実に瓶割っちゃうよー?」
「酔いがさめてから自分でやれ!」
「はぁ〜い‥‥。年の瀬になっても黒んぴゅは冷たいなー」
「年の瀬は関係ねぇだろ」
「今年最後なんだから、少しぐらい優しくしてくれてもいいんじゃない?」
「‥‥そんな事するとおまえはすぐつけ上がるからな‥‥」
「ちぇ。バレたか」
「悪びれもしねぇしな。まったく油断も隙もありゃしねぇ‥‥」
「え?黒たんいま『好き』って言った?」
「言ってねぇ!」





―― 12月31日 p.m.11:41 ――


「黒様、もうちょっとで終わるよー」
「長かったな‥‥今年もあと19分だぜ」
「んふふ。黒ぷーに何してもらおっかなー」
「‥‥気が早ぇ」
「しーっ。結果が出るみたい」


『今年の紅白歌合戦! 優勝は!

        白組です!!

    おめでとうございまーす!』


「‥‥‥‥」
「‥‥俺の勝ちだな」
「あーあ‥‥いろいろ考えてたのになー。残念。黒みんも運が強いね」

『それでは皆さん!良いお年をー!』

「あと15分で新年だな」
「そうだねぇ」
「‥‥さて、おまえに何をさせようか」
「何でもどーぞー」
「いやに潔いな‥‥」
「だって紙にペンで書いてるんだもん。ごまかしようがないよ」
「やっぱ書いといて正解だったな」
「で、オレは何をすればいいの?言っとくけど1つだけだよ」
「んー、何にすっかな‥‥‥‥。‥‥そうだ」
「思いついた?」
「元旦に、初詣に行くよな」
「うん」
「そん時におまえ、着物着て行け」
「え〜、あれどうやって着るか分かんないしー‥‥そもそも持ってないし」
「その辺りは俺がなんとかする」
「‥‥うん、オッケー。初詣は着物で、だね」
「写真に撮るからな」
「‥‥‥ん、まぁそれもオッケー。黒ぽんは着るのー?着物」
「どうすっかな‥‥そん時に決める」





―― 1月1日 a.m.0:00 ――


「‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥。あけまして、おめでと。黒様」
「‥‥‥新年早々、何しやがんだてめぇは」
「衝撃的な年越しだったでしょー」
「てめぇからってのは久々だな‥‥やっぱ酔ってんのか?」
「んふふ。黒様、『新年になった瞬間、何をしていましたか?』って訊かれたら、何て答える?」
「‥‥‥」
「ねー、言ってよー」
「‥‥『呼吸していなかった』」
「お、なかなか遠回しだね」
「おまえは何て言うんだ」
「『家族とキスしてましたー』」
「‥‥‥同棲相手って家族なのか?って、直接的すぎるだろ!絶対他人には言うなよ!」
「わーい、黒りんったら照れてるー」
「うるせぇ!!」





―― 1月1日 a.m.8:00 ――


「おい、起きろ」
「‥‥‥んうー」
「起きろ。朝だ」
「‥‥‥あれ?オレ‥‥いつの間に寝ちゃった‥‥?」
「衝撃的年越しの後、結局酔いつぶれやがった」
「あー、そうだっけー‥‥んしょ。おはよー‥‥。朝ご飯は?」
「雑煮だ。適当に野菜と餅放り込んで作った」
「ありがとー‥‥黒たん、もう食べた?」
「今からだ」
「じゃー、一緒に食べよー。‥‥あれ?テーブルの上、キレイになってる。片付けてくれたんだ?」
「‥‥邪魔だっただけだ」
「黒様、やっさしー」
「‥‥うるせぇ、とっとと座れ」
「はーい」





―― 1月1日 a.m.9:00 ――


「ご飯も食べたし、初詣に行こっかー。黒たん、オレの着物どうなったのー?」
「あー、それはな‥‥」

   ピーンポーン。 ピーンポーン。

「今年初のお客さんだー」

   ガチャリ。

「あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致しますわ」
「あ、知世ちゃん。あけましておめでとー。新年の挨拶?」
「それもありますけれど、黒鋼さんから頼まれまして」
「おまえの着物の用意をな。着付けも頼んだ」
「え?黒りんが教えてくれるんじゃないの?」
「さあさあ、黒鋼さんは別の部屋でお着替え下さいな。ファイさんはここで」
「おぅ。後でな」
「ちょっとー、黒様ー?」

   ガチャ、バタン。

「なんだかなぁ‥‥ま、いっか。知世ちゃん、着物見せてー」
「はい。ファイさんに一番似合うものを選んで参りましたの。時間の都合上、作って差し上げられなくて大変残念ですわ‥‥」
「そこまでしてくれなくてもいいよー。で、どんなの?」

   ガサガサ。

「こちらですわ!」
「‥‥‥え。知世ちゃん、これ、黒たんが前着てたのと随分違うんだけど‥‥」
「それは、黒鋼さんが以前お召しになっていたのは浴衣で、こちらは普通の着物ですから」
「いや、そーゆー意味じゃなくて‥‥」
「もちろん、こちらは女性用ですわv」
「‥‥‥」
「さぁ!ファイさん、服をお脱ぎ下さいな。まずは襦袢からですわ」
「ちょ、知世ちゃ‥‥!!」
「往生際が悪いですわね。男性なら、諦めが肝心ですわ!」
「‥‥‥男なんだから、男性用の着物を着せてよー‥‥」





―― 1月1日 a.m.9:15 ――


「おーい。終わったか?」
「もう少しですわ。ファイさん、いきますわよ」
「あー、ちょっと待って知世ちゃん‥‥‥ぐえっ」
「ファイさん、もう少しの辛抱ですわ」
「ぐ‥‥ぐるじぃ〜〜」
「これぐらいでないと帯が締まりませんわ」
「‥‥ったく、着物着るだけにどんだけ時間かけてんだ‥‥」





―― 1月1日 a.m.9:20 ――


「終わりましたわ!黒鋼さん、どうぞお入り下さいな」

   ガチャ、バタン。

「‥‥‥‥」
「‥‥どういうつもりなの、黒りん。女物だなんて、聞いてないけど」
「どうですか?」
「あ‥‥いや‥‥まぁ‥‥‥似合ってるな‥‥」
「黒鋼さん、正直におっしゃって下さいな。本当は『とても綺麗だ』とお考えでしょ?」
「!!なんで分かるんだ‥‥‥ってか、言うな!」
「ただの勘ですわ」
「黒たん、オレを無視しないでよぅー」
「‥‥おまえが寝ちまってから、着物の都合をつけに知世のトコに行ったんだよ」
「そこで私が提案致しましたの。『ファイさんには女性の着物のほうが断然お似合いになりますわ!』と」
「それで知世が全部任せろっつったから、そうした」
「なるほどねー‥‥。で、ホントにこのカッコで初詣に行くの?」
「当然だろ。賭けに負けたんだからな」
「‥‥でも、変なヒトって思われないかな?」
「そこはファイさんの美人度をもってすれば楽勝ですわ」
「おい、おまえかんざしも付けろ。勿体ねぇ」
「えー‥‥黒たん、付けてくれる?」
「‥‥おう」
「えへへー。ねー、オレ、綺麗?」
「‥‥‥知るか」
「黒鋼さんはご満悦のようですわ」
「みたいだねー」
「勝手に決め付けんな!」
「わーい、黒ぽん照れてるー」
「照れ隠しは逆効果ですわ」
「‥‥‥とっとと行くぞ!」
「そうですわ、私も同行させて頂けないでしょうか?このファイさんの美しい着物姿、カメラに収めねばv」
「勝手にしろ!!」





―― 1月1日 a.m.9:40 ――


「ねぇ、やっぱり周りの人の視線を感じるよ‥‥」
「それはファイさんがお美しいからですわ」
「金髪に着物ってのが珍しいだけだろ」
「そうかなぁ‥‥男ってバレてないかな‥‥」
「喋ると余計バレる」
「だってオレ、胸ないし‥‥」
「着物ですからそれはあまり分かりませんわ」
「だからそういう事を堂々と喋るんじゃねぇ!」





―― 1月1日 a.m.9:54 ――


「お賽銭、お賽銭ー。やっぱ5円玉だよね」
「何か願い事でもするのか」
「うーん、どうしよっかなぁ。黒りんは?」
「願うとか祈るとか、そういうのは嫌ぇだ」
「黒たんらしいねぇ。そーだなー‥‥黒たんや知世ちゃんが幸せでありますように、ってのはどう?」
「‥‥てめぇの幸せはいいのか」
「オレは、幸せな黒様と一緒にいれたら、それで幸せだからー」
「‥‥‥‥」

   チャリン。ガラガラ。  パン、パン。

「お2人とも、お済みになりました?」
「うん、今終わったー」
「で、何を願われましたの?」
「黒たんや君が幸せでありますように、って」
「まあ、ありがとうございます。黒鋼さんは?」
「‥‥‥何でもいいだろ」
「気になりますわ」
「気になるなー」
「うるせぇ!おまえら、みくじでも引いてこい!」
「つれないですわね‥‥。いきましょう、ファイさん」
「うん、行こー」

   バタバタバタ‥‥。

「‥‥ったく、なんであいつはあんな事をさらっと言うんだよ‥‥」

   ‥‥‥‥。‥‥‥‥‥‥‥。

(おまえの幸せなんざ、願う必要もねぇ。嫌でも俺がそうしてやる)

「黒るーん、こっち来て、おみくじ引こうよー」
「おう、今行く」





- END -





あとがき

衝動的に書いた大晦日&正月編。
実際自分が着物着せてもらってるときに思いついて、止まらなくなり‥‥。
ちょっと考えてた「年越しの瞬間」「着物ファイさん」がどっちも盛り込めて良かったです。
そして「会話だけの小説」に初チャレンジ!
某小説で読んで、「こんな書き方もあるんだー」と思い、挑戦してみました。
小説書くときはキャラが喋ってるのが一番に浮かんでくるので、書きやすかったです。
今回はギャグ目指してみました‥‥。それっぽくなっていれば嬉しいのですが;;



初出 2007.5.26.







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