大きな湖のほとりから少し離れたところ。
霧が深まる森を、ひたすら歩いていく。
闇に溶け込みそうなマントを着て大股で歩く黒たんと、並んで歩くオレ。
サクラちゃんの羽根の手掛かりを探しに探索を開始したオレ達だったけど、見渡す限り鬱蒼とした森と濃い霧ばかりで、人っ子一人、民家一軒見かけていなかった。
「見事に誰もいないねぇ」
ポツリと言った声は湿った大気に混じって消える。
……うーん、見事に無視かぁ。
小狼君やサクラちゃん、モコナなら、相槌のひとつでも返してくれるんだけど。
「小狼君、何か見つけたかなぁ」
応答がないのは分かっていても、止まないオレの独り言。
……隣を歩く彼の視線に、耐え切れなくて。
並んで歩いてるハズなのに、じっと見られているような違和感。
気を紛らわせるためだけに空虚な台詞が口先から紡がれる。
「黒鋼ー、ファイー!」
背後から聞こえる明るい声が鉛のような空気を粉々に砕いた。
振り返ると、白くて丸いものが飛び跳ねながらこっちへやって来る。
「あれ、モコナ、どうしたのー?」
「モコナも、黒鋼とファイと一緒に探索するの!」
「そっかー、助かるよー」
ホントに助かるよ。
この忍者さんと、2人きりにならなくて済むから。
――黒様が、怖い。
オレより頭一つ大きな体のせいじゃなく。
不機嫌そうな顔のせいじゃなく。
彼の瞳が――燃え盛る焔のような瞳が。
無関心なフリを装って、ずっと観察されてるようで。
見透かされそうで……怖い。
「黒鋼ー、モコナがいなくて寂しかったでしょ?」
「ンな訳あるか!」
モコナと黒みんが取り留めのない言い合いを始めたのをいいことに、オレは音を立てないようにして2人から離れた。
深い霧に紛れ込むようにして、歩を進める。
霧も闇も、今はありがたい。
簡単にこの身を隠せるから。
目の前に現れた木の根元に、ゆっくりとため息を吐きながら腰を下ろした。
重苦しい白色の空気がオレを包み、静かな闇がのしかかる。
もやもやとして、周りが見えない霧――――
それとよく似たものがここ最近オレの胸に巣食っていることには、とうに気づいていた。
時にそれはオレを突き動かす衝動となり、また時に胸を締め付けるような疼痛となって、度々オレを襲う。
自分でも、この”霧”の正体は分からない。
ただ一つ、確かなことは――――
「おい!何してんだおまえ!」
闇を切り裂くような鋭い声と共に、霧の向こうから黒い姿が現れた。
俯けていた顔をゆっくりと上げる。
相変わらず不機嫌そうな顔の彼がぶつくさと一人ごつのを聞き流しながら、辺りを見渡す。
そこにモコナの姿はない。
――ふたりきり、だった。
「いきなり消えたと思ったらこんなトコにいやがったんだな。行くぞ」
言うが早いか大きな手がオレの二の腕を乱暴に掴み、ぐいっと上に引っ張られた。
突然のことに抗えず立ち上がって、後ろの木にもたれかかる。
「痛いなぁー、何するのー」
自分が発した声色がいつもと同じことに、少なからず安堵する。
「おまえがほっつき歩いてるのが悪いんだろうが!」
黒りんから怒鳴り声が返ってきたことにも、安心した。
やはり腹を立てているのか、オレの腕を掴んだまま歩き出す。
「話してよぅー」
「うるせぇ!黙ってろ!」
手加減のない力に顔をしかめながら、どかどかと進む彼の姿をちらりと見やった。
黒たんは、霧をはね飛ばすようにして歩く。
――紛れるように歩くオレとは違って。
こんな風に、黒様の近くにいることが怖い。
彼は霧を……曖昧なモノを、はねのけてしまう。
――オレの胸に巣食う”霧”さえも。
そうしたら、隠しているオレの本当の姿が露呈してしまいそうで。
だから、近づきたくないのに。
けれど、同時にオレは欲している。
この”霧”が消し去られることを――――
否、彼の傍にいることを。
黒様の握力はホントに容赦なくて、腕に痣でもできるんじゃないかって思ったけど。
それを嬉しがっているオレがいるのは確かだった。
前触れなく湧き上がる衝動。
キリキリと締められるような疼痛。
それらは黒様の近くにいるときには鳴りをひそめ、代わりに甘い疼きが胸を蝕む。
こんな、どうしようもない感情を――――
ひとは、「恋」と呼ぶのだろうか。
- END -
朝、学校行くのに車で駅まで送ってもらった時に、ふっと湧いてきた話です。
試験真っ最中だったのに……救いようがないですね、はい。
次の日もテストあるのに、勉強そっちのけで書いてましたからね。
少しは我慢しろという(-_-;)
えらくウブなファイさんになってしまいました;どうしたんだ一体……。
ようやく恋だと自覚し始めたご様子。可愛いvv
人を好きになるのに理由はないと聞きますが、彼らの場合どうなんでしょうね。
というか、どっちが先に惚れたんだろう……気になります。
先に仕掛けたのは、確実に黒鋼でしょうね。
なんてったって攻めですからv
初出 2007.12.21.