「ねぇ、ハルカ。そのチョコ、誰にあげるの?」
作ったチョコの数が1つ多いのに気づいたのは、カスミに言われてからだった。
ここ、スウマシティで偶然カスミと再会したサトシ達。
バレンタイン・イブの夜、カスミとハルカは、こっそりとチョコを作っていた。
(えっと、サトシ、タケシ、マサト‥‥いるのは3つよね‥‥あとは1つは‥‥)
シュウ。
浮かんできたのは、ライバルでもある彼の名前だった。
「だーれがあんなヤツ‥‥!」
「え?」
「あ、なんでもないの、アハハ‥‥。」
思わず口にしてしまい、取り繕うハルカ。
「怪し〜い」
「!!」
カスミに意味ありげな目で見られ、ハルカはドキッとした。
「ねーねー、誰にあげるのー?」
「あ、あのね、ライバルのコーディネーターでシュウっていうヤツなんだけど、そいつに‥‥」
「ふぅ〜ん。義理チョコ?それとも、本命?」
「なっ、違う違う!本命じゃないって!」
慌てて否定するハルカ。カスミは楽しそうだ。
「それにシュウも旅してて、会えるかどうかも分かんないし‥‥」
「会えるかもよ?」
「えっ??」
カスミの意外な発言に驚くハルカ。
「このスウマシティには、生きた宝石って言われるほど美しい噴水があるの。この時期は特に綺麗だから、コーディネーターとかもたくさん来るのよ。だから、その子もいるかもね〜」
「‥‥‥‥」
ハルカは4つ目のチョコを見つめ、しばし考える。
「ダメもとじゃない。行ってみたら?」
「‥‥‥‥うん」
ハルカはうなずいて、チョコのラッピングを始めた。
そして、バレンタイン当日。
ハルカはその噴水の前に来ていた。
「生きた宝石」とうたわれる噴水はとても美しく、知っているコーディネーターも数人見かけた。
しかし、肝心のシュウがいない。
いるという確証もないのだから不思議ではないが、ハルカは内心肩を落とした。
「帰ろっかなぁ‥‥」
そう思うたびに、いや、もう少し待とう、と思い直す。
そうするうちに3時間が過ぎ、日が傾き始めた。
「やっぱりいないのかも‥‥」
「誰を探しているんだい?」
ふいに、背後から声がした。
「シュウ‥‥‥!」
現れたのは、待ち続けた人で。
ハルカは思わず、笑みをこぼした。
「君もここに来たってことは、やはりこの噴水目当てかい?」
ハルカはムッとした。
「何よ!‥‥‥私、ずっとシュウを待ってたんだから!」
「え?」
驚くシュウ。
「はいっ、コレッ!」
ハルカは持っていた包みを半ば強引に手渡した。
「これは‥‥」
「チョコレートっ!!バレンタインでしょっ!」
「そうか‥‥」
(これを、僕に渡すために、ハルカは‥‥)
「‥‥‥‥‥ハルカ 」
「何!?」
シュウは、優しく微笑んで。
「ありがとう」
と、言った。
「‥‥どう、いたしまして」
そんなシュウを前にして、ハルカの感情の高ぶりもおさまったようだ。
「ところで、君はスウマの泉には行ったかい?」
「?何それ?」
「まったく君は‥‥。あれほど有名なものもないというのに‥‥」
「悪かったわね、知らなくて!」
そっぽを向くハルカ。
「この近くに湧き泉があるんだ。僕はこれから行くけど、君はどうする?」
「湧き泉かぁ‥‥。行ってみたいかも!」
「じゃあ行こう。こっちだ」
スウマの泉は、噴水から少し離れた森の中にあった。
泉のそばには謂れの書かれた看板などがある。
「わぁ‥‥」
そこには、噴水とはまた違った自然の美しさがあった。
シュウがバッグから水筒を取り出し、コップに泉の水を汲む。
「え‥‥この水、飲めるの?」
「そうだよ。君からどうぞ」
「あ、ありがと。‥‥‥うわぁ、すっごくおいしいかも!」
「だろう?シロガネ山の水に勝るとも劣らないおいしさだからね」
「へー。ねえ、あれは何?」
そう言ってハルカが指差したのは、小さな建物だった。
「あれは写真館。この泉の写真が飾られてるんだ」
「ふーん‥‥。ねえ、見に行ってもいい?」
「別に構わないけど‥‥‥」
「じゃあ、コレ。ありがとね!」
「あ、ハルカ!」
言うが早いか、ハルカは水が入ったままのコップをシュウに押し付け、走り出していた。
「まったく‥‥」
肩をすくめながら、コップに残った水を飲み干すシュウ。
写真館へ行こうとしたそのとき、看板のこんな文が目に入った。
『スウマの泉にはたくさんの伝説やジンクス、おまじないがあります。特に有名なのは恋に関するジンクス、おまじないで、例えば、好きな人と同じコップで泉の水を飲むと、その人と深い絆、縁で結ばれる、というおまじないがあります。』
「‥‥‥‥」
夕日が泉を照らすなか、シュウは歩き出した。
2人は噴水のある広場まで戻ってきていた。
噴水が、夕日に染まってルビーのように輝いている。
「泉の水、ホントにおいしかった〜。違う季節にもきてみたいなー」
「そうだね。泉には、季節ごとの美しさがあるから」
ベンチに座って、他愛もない会話を交わす2人。
ほどなく、シュウが立ち上がった。
「僕はそろそろ行くよ。もう、日が暮れる」
「うん。‥‥シュウ、今日はいろいろありがとう」
「それはこちらの台詞さ。‥‥‥‥ところで、ハルカ」
「何?」
「このチョコは、義理と本命、どぢらとして受け取ればいいのかな?」
「!!そ、それは‥‥っ ///」
口ごもるハルカ。その顔が赤いのは、夕日のせいだけではなかった。
「それじゃあ」
立ち尽くすハルカを残して、シュウは歩き出す。
あのおまじないが、本当なら。
1ヵ月後のこの日にも、彼女に会えるかな。
そう、思いながら。
- END -
恋のイベント、バレンタインです。
書いてて面白かったのはハルカとカスミのやりとりですね!楽しかったぁ(笑)
ちなみにスウマシティっていうのは勝手に作った町です。おまじないも作りモノです。
個人的にはやっぱり本命であってほしいですね。
ていうか絶対本命(笑)
初出 2006.5.26.