「トリック・オア・トリート!」
見事なまでのジャパニーズ・イングリッシュでハルカが叫ぶ。
差し出された両手を前にして、シュウは呆気に取られた顔を隠せなかった。
たまたま通りかかった街で偶然ハルカを見つけて、声をかけようとした矢先にこんな待遇をされたら、誰だって戸惑うだろう。
よく見れば、彼女のトレードマークであるバンダナにムウマの飾りが付いていたり、カボチャ提灯の柄がプリントされた紙袋を両手に抱えていたり。
あえて言うなら、ハロウィンルック。
スイーツ好きの彼女のことだから、きっといろんな店でこの時期限定のメニューなんかを食べ歩いていたのだろう。
シュウは身振りで、あげられるようなモノは持ってない、と示した。
「え〜!つまんないの。じゃあ今からどこかお店に寄ってお茶でもしない?シュウのおごりで」
シュウは気まずそうに言葉を紡いだ。ごめん、今急いでるんだよ。
募る不服を溜め込むかのようにハルカの頬が膨れる。
でも、とシュウは続けた。表向きは冷静ながらフル回転していた彼の思考回路が、答を弾き出したのだ。
treatは無理だけど、trickならあげられるよ。
トリック?とハルカが眉をひそめた。
「悪戯するのは私のほうでしょ。シュウがお菓子くれないんだもん」
ハルカの言い分をいなし、シュウは笑みを浮かべて近づいた。
「ねぇ、シュウってば」
続くはずの言葉は唐突な行動に遮られた。
ハルカの頬に、小さく柔らかな感触が押し付けられる。
まるでマシュマロのような、綿菓子のような人肌の温もりが触れていた。
一瞬のことだったが、ハルカの頭を真っ白にし体を固まらせるには十分すぎる刹那で。
硬直したハルカの頬からシュウの唇が離れる。
一拍遅れて体の機能を取り戻したかのように、みるみるうちにその頬が染まっていく。
ハルカは頬に手をあて、水際の魚のように口をぱくぱくさせながら。
シュウはしてやったりと得意げに笑って。
「な、な‥‥‥な、な」
秋風に少し冷えた手のひらが頬の熱を吸い取るが、それでも炎に手をかざしているかのように熱い。
静まることを忘れたかのように打ち続ける鼓動に押され、満足に声を絞り出すことも出来ない。
「Happy Halloween、ハルカ。ハロウィンルックも美しくないね」
シュウは足早に、街の賑わいの中へと消えていった。
勝ち誇ったような笑顔と、真っ赤になって立ち尽くしたハルカを残して。
「‥‥‥シュウのバカ‥‥」
ハルカの呟きが雑踏にこぼれる。
戯れは菓子より甘く。
そしてそれに込められたのが悪意でないことは、心の底で知っている。
「これじゃ、トリックかトリートか分かんないかもっ」
- END -
さんざん更新サボっておきながら久々の小説がこんな短くてごめんなさい;;
思いついたときは「いいかも!」って思うんですけどねー。例外なく。
書いてる途中で、「あれ、おかしくね?」とか「なんか違う‥‥」とか、最悪「書く気にならん‥‥」とか。
やっぱり、ネタにベクトルが向いている間に書くのが一番ですね。
今回のシュウは意識的に無口。
やるだけやって逃走とは、男らしくないですね。シュウらしいですけど。
リクエスト下さった蜜蜂さん、ありがとうございました!
遅くなって申し訳ありませんでした;;
初出 2007.12.21.