聖者の悪戯






 「しかし君は、また随分と愉快な格好をしているね」
 「うるさいかもっ。いいじゃない、この時期だけしか着れないんだから」
 白い息となって宙を舞う皮肉と反言。
 右隣に座るハルカは、見慣れているけど懐かしいふくれっ面で僕を睨んでいる。
 ハルカとはいつも意外な場所で逢うけれど、今日はまた別の意味で面喰らうことになった。
 街頭の空気に賛美歌が溶け込み、星空が霞むほどのイルミネーションが瞬く季節。
 印象的な赤い服を着ているという点から見れば、普段と全く変わらないけれど。
 しかし今のハルカの頭にはバンダナではなく、白い綿に縁取られた赤い三角帽子。
 それと同色のノースリーブのワンピースにも丸い綿のような飾りボタンが3つ。丈は普段のスパッツと変わらない。
 しかしさすがにこの季節、白いハイソックスとブーツで足の露出は抑えられている。剥き出しの上腕を守るように羽織られたケープにも、綿の縁取り。さっきから握っている薄っぺらく白い袋が風にはためいた。
 聖夜が近づき、人々の心が弾む季節。
 相応しいといえば、そうなのだろうけど。
 ありふれたというのも、間違いではないだろうけど。
 「借り衣装なんだけど、可愛いでしょ?ホラ、このマントみたいなのとか」
 軽いステップで一回転。ふわっと風をはらむケープ。
 「‥‥‥美しくないね」
 決まり文句のような感想に、ハルカはまたも不満顔。
 久しぶりに会えた喜びといつもと違う新鮮な君の姿に、僕の胸はこんなにも高鳴っているのに。思うように動かないこの口を許してほしい。
 「イルミネーションって遠くから見てもキレイ!」
 打って変って、心から感動が溢れたような声。いつもながら君は切替えが早すぎる。
 「ねぇシュウ、こっち来て!」
 急に腕を掴まれ、一足飛びに体温上昇。動悸を押し殺しつつ、力に任せて体は動く。
 「ホラ!」
 サンタ姿の少女が指差す先には。
 見下ろす視界いっぱいに広がる、光の景色。
 趣向を凝らされた人工の輝きが、闇に浮かび上がる。
 「‥‥美しいね」
 僕たち2人が足を下ろしている、此処――街の展望台からは、息を呑むほどに煌びやかな夜景を眼下に収めることができた。
 「でしょ?『クリスマスに恋人と見たい夜景ベスト5』に入ってたの。さすがって感じかも」
 ‥‥‥‥ハルカのことだからきっと無意識なのだろうがなかなか胸に来ることを言う。
 この街で逢ったのは偶然でしかない。でも彼女が誰のことを考えているのかという疑問符が胸をゆるりと締め付ける。
 「‥‥シュウ、どうしたの?もしかして高いトコ苦手?」
 脳を蝕む疑問をやり過ごすと、心配そうな青い瞳が僕の顔を見つめていた。
 「いや、大丈夫だ。あまりの美しさに、言葉が無いというか‥‥ね。ところで、その袋には何か入っているのかい?」
 焦りを隠すにはかなり白々しい台詞だが、彼女の鈍感さに少し助けられたようだ。怪しむ素振りも見せず、ハルカは袋を逆さまにして軽く振った。
 「ううん、なんにも。ただのお飾りだって、お店の人も言って――」


   カシャン。


 小気味よい金属質な音が足元に転がる。
 「‥‥‥‥何か落ちた」
 「え、ウソ?」
 合図もなく、僕らは同時にしゃがみ込む。
 味も素っ気もないコンクリートの上に、キラキラと輝くものが一つ。
 拾い上げたそれは銀粉を纏い冷ややかで、心地よい重みがある。
 立体だが平べったいそれの裏側には細い留め針。
 空のはずの袋から現れた、ポインセチアをかたどったブローチ。
 「綺麗‥‥‥‥」
 月並みな形容だが、ハルカの口からこぼれた言葉がそれには最も似つかわしかった。
 中心から放射状に広がる葉は一枚一枚が丁寧に作りこまれ、職人技を感じさせる。かと思えば少し触っただけで銀粉がとれてしまったりと量産ものの影も見え隠れする。しかしはらはらとこぼれる銀粉が風情を醸し出し、アンバランスな美しさを演出していた。
 「でも、借りたときには何も入ってなかったのに。不思議かも」
 ハルカはブローチを手に取り、眉を寄せた。しかしそれも刹那のことで、次の瞬間には留め針が外される。ものの数秒で、ポインセチアはハルカのサンタ服の胸に収まった。
 ためらいの無さすぎる挙動を止めようとしたが、
 「どう?似合う?」
 悪意ゼロの笑顔を向けられてはどうしようもない。
 「‥‥‥‥美しいね、そのブローチ。赤と緑のコントラストが何とも言えない」
 「もうっ!シュウのいじわる!」
 予想通りの反応。瞬間ごとに色を変える夜の眺めに、ハルカの横顔が重なる。
 ―――美しくな‥‥いや、可愛い。
 「ねぇ、ポインセチアの花言葉って何?」
 「え?」
 虚を衝かれてらしくもなく反応が遅れるが、すぐに脳内辞書のページをめくる。
 ポインセチア。観賞用の常緑低木で中央に小花が集まって咲き、包葉が真紅に染まるクリスマスの花。
 花言葉は――――


 「‥‥‥‥   」
 「え?何て言ったの?」
 「‥‥‥‥ごめん。分らない」
 「えぇーー!ウソでしょ?」
 嘘だと思いたい。本当に。
 しかし何度記憶を辿っても行き詰まる。目的の箇所は空白のままだ。どう考えても堂々巡り。記憶の片鱗すら見つからない。
 ハルカの問いに答えられない。
 焦りが体中を駆け巡る。
 気温のせいではない寒さを感じる。
 オーバーワークに陥りそうな脳の芯が震える。
 「‥‥‥‥そっか」
 必死にポーカーフェイスを構築しようとする僕を映した青い目が、細められる。
 「シュウにも、分らないコトってあるんだね」
 ハルカは。
 それまでとは違う笑顔で、そう言った。
 残念と意外、そして安心をひと掬いずつとって混ぜたような、そんな声音。
 「今度会う時までに、調べといてほしいかも」
 「‥‥君が調べればいいじゃないか」
 「だってー。花言葉はシュウの、‥‥えっと、何て言うんだっけ」
 「‥‥‥‥専売特許?」
 「そうそれよ!」
 いつも通りの、笑顔。
 ‥‥‥‥ああ、さっきまでの嫌な感情の波がひいていく。
 体の芯が温もりを取り戻す。
 君は、何故いつもそんなに行き当たりばったりなんだろう。全然美しくない。
 予測不可能な君の仕草に、反応に、僕は踊らされてばかりだ。



 思った通りにいかなくて。
 イレギュラーなことばかり。
 法則なんてどこにもなくて‥‥‥‥

 でもそれが、
 この気持ちを引き立ててくれる。
 美しくないけれど、甘酸っぱいキモチには必要なスパイスなんだろう。
 冷めているように見せかけた心を、熱くたぎらせるための――――





  ポインセチア
  喜びの夜を彩る 赤と緑のハーモニー
  純白の袋に投げ入れられた 聖者の悪戯
  聖夜にめぐり逢う恋人たちへ
  静かに告げる 「祝福」の調べ

 

 

- END -






あとがき

 最近シュウハルは季節ものしか書いてないような‥‥。
 ‥‥‥‥気のせい気のせい(要反省)
 クリスマスということで、ありきたりなサンタコス!
 シュウは想像出来なかったので(だってウケるw)ハルカがミニスカサンタになりました。
 ひょんなコトで、実際友人がミニスカサンタの服を着たのを見たんですが。
 あれホントに可愛いですね!やはり着る人によるのでしょうが(汗)
 友人はサンタコスに黒タイツ、こげ茶のブーツという出で立ちでした。
 今回のハルカはそんなイメージ。

 そして、初のシュウ一人称!
 シュウなんで、結構カタい言葉も使えて僕的には描きやすかったです。
 回りくどい比喩も違和感がないという(笑)
 慌てるシュウとか見たいなー、なんて願望がそのままカタチになってしまって;;
 でもなんかピンときません。修行不足‥‥(泣)
 ポインセチアの花言葉は、ラストの詩に隠れてます(かなり分かりやすいです)
 気になった方はこちら(花言葉:ポインセチア)へ。今回参考にさせていただきましたサイト様です。


 クリスマスプレゼント!ということでフリー小説となっております。よろしかったらお持ち帰りください。
 このサイトも、どのような形であれ見守って下さる方のおかげで成り立っています。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
 皆様が素敵なクリスマス、そして元旦を迎えられますように。


配布期間は終了しました。


初出 2007.12.23.


背景素材提供:Christmas Museum







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