「月瑠―――――っ!!」
残された者の慟哭が天を衝いた。
‥‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥。
どこだろう、此処は‥‥。
私は‥‥。
幻の大地に辿り着いて‥‥
時空の塔に上り‥‥
ディアルガと戦って‥‥
そして、時の歯車を収めて‥‥
「そう‥‥時空の塔の崩壊をくい止めたのよ」
水面の上の小舟のように漂っていた意識が覚醒する。
幾度か瞬きをして周囲を見回した。辺りは一面、青く明るい光に包まれている。見たこともない場所。
どこなの、此処は‥‥?
「月瑠!」
背後から呼ばれて、振り返る。
こちらへと近づいてくる、2つの人影。
あれは‥‥
「ジュプトル!それに‥‥セレビィも!」
未来世界で‥‥そして古代遺跡で別れたはずの2人が、目の前に立っていた。
「月瑠、やったんだな!」
「星の停止はくい止められたのね!」
笑顔に溢れた声。
「どうして、その事を‥‥」
「分かるさ。オレ達がこうして揃ってるんだからな」
そうだ、どうして別れたはずの2人が‥‥。
「此処は‥‥どこなの?」
「ここは時空の狭間。歴史が変わったことで未来世界のワタシ達は消えてしまって、ここに紛れ込んだの」
時空の狭間‥‥!
言われてみればこの光は、時の回廊の光によく似ている。
‥‥そういうことね。
「ワタシ達がここにいる‥‥つまりそれは、あの世界が救われたということよ」
「月瑠、本当によくやってくれた‥‥体中ボロボロじゃないか。大丈夫なのか?」
「うん‥‥ディアルガとかなりやり合ったからね」
そうか‥‥世界は、救われたのね。
各地の時も動き出して、トレジャータウンやギルドの皆も喜んでるはず。
そして、雫も‥‥。
「アナタのパートナーもよく頑張ってくれたわね」
ジュプトルは何も言わない。きっと、別れたばかりの私の心情を案じてくれてるのね。
雫‥‥
私の‥‥一番のパートナー。
あの浜辺で出逢ってから、探検隊を結成してギルドに弟子入りして。
いろんな所を冒険して、いろんな人と出会って、いろんな事を経験した。
楽しい時も苦しい時も、雫と一緒だった。
最後の冒険でも、雫はずっと私を勇気づけてくれて‥‥助けてくれて‥‥。
ディアルガとのバトルでも、雫がいたから向かっていけた。雫がいなかったら‥‥勝てなかった。
時空の塔を出て、虹の石舟に着く前に‥‥私は‥‥。
「ジュプトル‥‥私ね、歴史を変えたら未来の住人が消えるって事‥‥雫に言わなかったの」
「何!?本当なのか、それは‥‥」
「うん。‥‥雫ってね、臆病なの。その雫が勇気を振り絞って時空の塔に行くって決めたんだから‥‥覚悟に、水を差したくなかったの」
平和を守るためには、世界を救うためには。
迷いなんて、必要なかった――
「雫さん‥‥凄く驚いたんじゃないの?アナタが消えるって知って‥‥」
「そうだ。ちゃんと別れの挨拶は出来たのか?」
「別れの‥‥挨拶‥‥」
時空の塔を出てから‥‥。
達成感に満ちて歩く雫に、私は追いつけなくて。
気がついたら体が光ってて‥‥雫は凄く驚いた顔をしてた。
『生きて、帰ってね』
『ずっと忘れないよ、雫のこと』
『さようなら――』
私が別れを告げても、雫は戸惑ってた‥‥。
「最後に見た雫の顔‥‥泣いてたんだ‥‥」
どうして、言っておかなかったの。
私は消えてしまうからって。これが最後の冒険だって。
言っていたら‥‥雫の悲しみも、少しは和らいでいたかもしれない。
笑顔でさよならって、言えたかもしれない‥‥。
「月瑠‥‥」
「月瑠さん‥‥」
私と雫がいた世界。
救われた世界。
平和な世界。
私は消えるけど‥‥雫はそこで生き続けるんだ。
「雫に、会いたい‥‥後悔が残らないように、もう1度だけ会って‥‥ちゃんと、挨拶したいよ‥‥」
叶わないって分かってる。
でも‥‥。
「月瑠さ‥‥‥‥!?」
セレビィがいきなり口をつぐんだ。大きな瞳を、更に見開いて。
「どうした、セレビィ?」
突然鳴り響いた轟音が、セレビィの代わりに応えた。
「な、何‥‥!?」
耳を貫かれるような音。それは、獣の咆哮のような。何故だろう、聞き覚えがある――
「まさか‥‥ディアルガ!?」
ディアルガの、“時の咆哮”!!
空間が揺れる。光がうねる。
そして、声が聞こえる――
『‥‥月瑠よ』
これは、ディアルガの声‥‥!
『月瑠よ‥‥元の世界に戻りたいか?』
‥‥!?
今、何を‥‥何と言ったの?
『戻りたいか?元いた世界‥‥お前の仲間達が住む、この世界に』
え‥‥?
戻れる‥‥の?あの世界に‥‥。雫がいる世界に‥‥。
「月瑠!」
ジュプトルが叫んだ。
「行ってこい!行って、お前の一番の親友を‥‥パートナーを、笑顔にしてやれ」
「でも、あなた達は‥‥!」
ジュプトルとセレビィは?
戻れるのは私だけなの?
「ワタシ達は大丈夫。未練なんてないもの。アナタは‥‥やりたいことが、あるんでしょ?」
やりたいこと‥‥。
雫‥‥!!
「‥‥行きます。元いた世界に‥‥雫がいる、世界に」
『‥‥良かろう。お前が望むのなら‥‥
これは礼だ、受け取るがいいッ!』
再び轟音が響き渡った。頭が割れるほどの。
瞬間、目の前の空間が歪んだ。時空ホールのように光が波打つ。
‥‥ここに飛び込めってことね。
「ジュプトル、セレビィ!ありがとう‥‥私、行くね」
「ああ。ギルドの奴らにもよろしく頼む」
「元気でね、月瑠さん!」
ありがとう、2人とも。
そしてありがとう‥‥ディアルガ。
大きく深呼吸。
助走をつけて、一気に駆ける。
元いた世界へ、雫が待つ世界へ――
「‥‥行っちゃいましたね、月瑠さん」
「ああ。礼だ、と言ってたなディアルガは。雫と、無事会えてるといいが‥‥」
「‥‥良かったんですか?」
「何がだ?」
「だって結構ブツブツ言ってたじゃないですか。月瑠のパートナーはオレだったのにって」
「ああ、それなら‥‥もういいんだ。お前こそ‥‥あんな真っ暗な世界じゃなくて、明るい所で暮らしたいって言ってなかったか?」
「‥‥いいんです。ワタシ達がいたような世界になるのは防げたんですし‥‥それに‥‥」
「それに‥‥何だ?」
「‥‥ジュプトルさんがいれば、どこだって明るい世界なんです。ワタシにとっては」
「‥‥フン」
「‥‥ウフフ」
これで何回目になるのかな‥‥時空を渡るのは。
雫に会ったら、一番に何をしよう‥‥。
ふっと、それまで滑るように移動していた体が止まった。そして柔らかい光に包まれる。
光が消えて‥‥
最初に聞こえたのは、波のさざめきだった。
水平線の向こうに沈みゆく夕陽。
オレンジ色に染まる空。
クラブの群れ。飛び交う泡。
嗚呼――同じだ、最初に見た景色と。
大切なキミに、出逢った光景と――
「月瑠‥‥?」
その風景の真ん中に、雫がいた。
目の端に涙が溜まってる。目が赤い‥‥もしかして、泣いてたの?
「月瑠‥‥?ホントに、月瑠なの‥‥?」
やっぱり。雫、泣いてるじゃない。ホント泣き虫なんだから‥‥。
人のこと言えないかな。私だって今、目頭が凄く熱いもの‥‥。
そうだ、雫に‥‥雫に、ちゃんと挨拶‥‥しないとね。
「ただいま、雫‥‥!」
「‥‥月瑠‥‥おかえりっ‥‥!!」
- END -
感動のエンディングを迎えて、月瑠は消えてから再び雫の前に現れるまでどうしてたのかな‥‥というところを脳内補足。
前の時空の塔編書いたあとに、勢いで書いたようなものです。(にしちゃ長い‥‥;)
途中で乱入したジュプトル×セレビィぽいシーンはただの趣味です(爆)
だってピンセレ(ピンクセレビィ略)可愛いんだもん‥‥!
何ですかあのデレっぷりわ!頬までピンクに染めちゃってv
色違い体色×頬×背景でピンクの3乗でしたよv
去るほうはいいかもしれませんが‥‥残されたほうはたまりませんよね、ギリギリまで何も言われないってのは。
てか今回、「‥‥」を多用し過ぎました。自分で書きながら目がチカチカしてましたが(ヲイ)見づらかったらごめんなさい;;
初出 2008.1.5.