青い空に白い雲。
そして、桜色の雨。
「きれーい!」
美しさを競うように咲き誇る桜の下、嬉しくてしょうがないといったふうに跳ね回っている女の子の姿があった。そして、
「アヤ、はしゃぐのはいいけど転ばないようにな」
その後ろから兄であるミツルと、ワタルが歩いてきていた。
「楽しそうだね、アヤちゃん」
「ああ。連れてきてよかった」
そよぐ風に春を感じるようになったこの頃、花見に行こうと言い出したのはワタルのほうだった。せっかくだから、とアヤも交えて三人での花見と相成ったのだが。
「お兄ちゃん、この黄色いお花はなに?」
「菜の花だよ」
「じゃあ、これは?」
「クローバー。あっちはナズナ」
「すごーい!お兄ちゃんものしり!」
先へ先へと足早に駆けていくアヤとそれを見守るミツルを目で追いながら、ワタルは自分だけ取り残されたような気分だった。ほんの、少しだけ。
開けた場所で三人は歩を止めた。桜の木の根元にビニールシートを引き腰を下ろす。
水筒のお茶を飲み、持ってきた串団子に舌鼓。花より団子と言うが、花見に団子はいつの時代も欠かせないアイテムである。
「おいしい!」
「よかったな、アヤ」
微笑みを浮かべて、団子をひとかじり。
「あ、ちょうちょ!」
早々に団子を平らげたアヤは、ひらひらと舞う蝶に惹かれて立ち上がる。
「あんまり遠くに行くなよ」
木々の合間へと走っていく妹に声をかけてお茶を一口。
そしてやっと、ワタルのほうを向いた。
「小母さんに礼を言っておいてくれ。アヤも喜んでたって」
「……うん」
思いの外暗い声で応えてしまったことに自分でも驚いた。しまったと思ったけれど遅かった。
「どうかしたのか」
「……ミツルはほんとうにアヤちゃんのことが大切なんだなって、思っただけだよ」
そんな事は分かり切っている。幼くして不幸に巻き込まれた最愛の妹。彼女を取り戻すために、ミツルは幻界へ赴いたのだから。
アヤが羨ましかった。いつもいつもミツルに見守られて、見つめられて、頭を撫でられて、思われて。
そしてミツルがちょっぴり恨めしかった。アヤちゃんを思う何分の一でもいいから、僕のことを思ってほしいと。
こんな気持ちを心のどこかに抱えている自分が情けなかった。これではまるで、
「アヤに嫉妬してんのか」
ミツルの言は的のど真ん中を射抜くような正確さでワタルの心を突いた。勢い飲みかけのお茶を吹き出しそうになる。
「そ、そんなコト……!!」
ないはずがない。なんて言えない。
ふう、とミツルが溜息をついた。こんな時は、ミツルがいつも以上に大人びて見える。あるいはワタルのほうが、普段より子どもじみているのかもしれないけれど。
「あのな、お前とアヤのどっちがどうとか、比べられないんだよ。『大切』の次元が違うんだから」
言うが早いか、ミツルは水筒のコップを奪い取ってお茶をつぎ一気に飲み干した。そしてそっぽを向いて、黙りこくってしまう。
(……もしかして、照れてる?)
僕とアヤちゃんでは比べ物にならない、ということではなくて。
アヤちゃんのことは、家族として大切。
僕のことは――
「ね、ミツル」
空いたままのミツルの左手に、ワタルはそっと触れる。心地よいぬくもりだった。それは、芽吹きを呼ぶ日の光のような。
ミツルの手が動いて、互いの指がやさしく絡みあう。
顔を上げると、こちらを向いたミツルの瞳に見つめられていた。
嬉しいけれどなんだかくすぐったくて。目線を戻すと、いつのまにか手の甲には桜の花びらが落ちていて。ああそういえば、コレってハートマークに似てるよなぁなんてことを思って。
「お兄ちゃんたち、なかよしだー」
がばっと正面を向くと、アヤがにこにこしてそこに立っていた。
夢から覚めたかのように元の世界へと引き戻され、慌てて手を引っ込める二人。
弁解の余地は絶無だったが、その必要も皆無だった。
そんな花見の帰り道。前を行く少女を見守りながら、二人の少年が手を繋いで歩いていたのは、内緒のお話。
- END -
リクエスト頂いたので、ミツワタ書かせて頂きました!え、ミツワタ……ですよ?個人的にはミツワタもワタミツもアリなんで……曖昧ですみません……;;
最初は卒業シーズンだから卒業式で行こう!と思ったのですが、ストーリー展開ががまとまらないまま時は経ち。
もうそろそろ入学式だよな……と入学前の話に変更するもネタがまとまらず。
こうなったら花見で!……というわけでやっと書きあがりました。達成かーん。
思えばこれでミツワタは4作目、書いたのはなんと2年ぶり。そりゃ忘れてるわけだ……。
書くにあたって以前買ったブレスト同人誌を読み直したりしました。やっぱこの二人も好きだ。うん(^^)
アヤが絡むと意外に面白いですね。無邪気な子は可愛いなぁ。
リクエスト頂いた蒼羽さん、ありがとうございました!甘め……になってるか怪しいですけれども;
どうぞお持ち帰りください。
お持ち帰りは蒼羽さんのみ可です。
これからも月下の小夜曲、ならびに管理人をよろしくお願いします。
初出 2009.3.22.