完璧だ‥‥。
小さな部屋の中、少年は満足そうに溜息をついた。
窓から見える墨色の空には、既に月と星が輝いている。
普段はきれいに整頓され掃除も行き届いている彼の部屋は、なぜかあちこちが散らかっていた。
しかしそんなことは気にも留めず、少年は黙々と作業の最終段階に入っていた。
2度、3度、細部まで確認し、念入りにチェックする。
「Perfect‥‥」
2度目の独白を、小さく声に出した。
ロウソクの炎が、勢いよく吹き消される。
「サファイア、誕生日おめでとう!」
祝いの言葉とともに、盛大な拍手がわき起こった。
サファイアの誕生日であるこの日、彼女の家でささやかなパーティが開かれていた。
テーブルには様々なごちそうが並び、天井からは色とりどりの飾りが完璧な美しさをもってパーティに華を添えている。
料理はルビーとサファイアの母親、飾りはルビーが、それぞれ作ったものだ。
「いやあ、時が経つのは早いなあ。この前まではほんの小さな子どもだと思ってたのに」
しみじみと呟くオダマキ博士。
「一人前に研究を手伝ってくれるし、一人前に冒険に出たし、一人前に、恋も‥‥」
「そのあたりで止めておけ」
センリがその先を制した。
「父親として虚しくなるだけだ」
「‥‥‥悲しいこと言うなよ、センリ」
わずかに落胆に沈んだその肩を、センリがポンと叩く。
父親同士のわびしい話をよそに、パーティの主役・サファイアにはプレゼントが渡されていた。
母親たちからは今後の冒険に役立ちそうな道具をもらって、喜色満面だ。
「父さんたちは無いの?」
「そんなわけないだろう。ほら」
センリも博士も、きれいにラッピングされた箱を抱えていた。
「そう言うお前こそ、用意してるのか?」
両腕を頭の後ろで組んだまま立っているルビーに、センリが問う。
ルビーは平然と答えた。
「ボクは最後にあげようと思って」
「ブラシばもろうても、毛づくろいなんかせんけんね」
「もっといいものだよ」
含みのある笑いを浮かべる。
「もったいぶってないで、持ってきなさいよ」
「OK。ちょっと待ってて」
母親に促されて、なぜか彼は玄関へと向かう。
「ルビー!どこに行くの?」
「家だよ。まだあっちに置いてるんだ」
振り向かずに答えて、ルビーは行った。
何をくれるんやろ?
サファイアは実のところルビーからのプレゼントを一番楽しみにしていた。
先ほどはあんなことを言っていたが、彼から何をもらっても、大切にしようと心に決めていた。
心を躍らせて彼が来るのを待っていると、
ブルン!!!
突然、家の外で大きなエンジン音がした。
「な‥‥‥何だ?」
「私が見てこよう」
センリが席を立ち、外へ出て行った。
「それにしても、ルビーは遅いわね。何をしているのかしら」
彼の母親が苛出だしそうに呟く。
しばらくして、ガチャリと部屋のドアが開いた。
「ルビー?‥‥‥あら、あなた」
入ってきたのはセンリだった。
「それで、何だったの?あの音」
「ああ‥‥。その前に、客人をもてなそう」
センリに連れられて、2人の人物が入ってくる。
サファイアが目を丸くした。
「先生!それに‥‥ミクリさん!」
「やあ、サファイア。久し振りだな」
ナギとミクリが、それぞれ笑顔で応じた。
「先ほどは私のエアカーがご迷惑をおかけしたようで‥‥すいません」
「いいですよ。せっかくのパーティーですもの、賑やかなほうが楽しいわ」
他の人達も笑顔でうなずいた。
「先生たちまで来てくれて、嬉しいったい」
「歓迎ありがとう。そして、おめでとう、サファイア」
2人からもプレゼントが渡された。
「そういえば、ルビーは?」
「プレゼントを持ってくるとか言って家に帰ったっきり、戻ってこないんですよ。あの子ったら、本当に何をしているのかしら」
彼の母の苛立ちは頂点に達しようとしていた。
それから数分後。
ガチャリ。
「お待たせ〜♪」
ルビーがニッコリ笑顔で帰ってきた。
「あれ?なんで師匠とナギさんがここに?」
「あなたがいない間にいらしたのよ」
ミクリがふいに尋ねた。
「サファイア、ルビーは何をくれたんだい?」
「何ももらっとらんとよ」
「まさか。忘れていたのか?」
驚いて声をあげるナギ。
「今から渡そうと思ったんですよ」
彼が、自分の背丈の半分ほどもある大きな袋を掲げた。
「Happy Birthday、サファイア!」
「‥‥ありがと!」
大人たちから温かな拍手がわいた。
早速、サファイアが袋を開ける。
袋の中をまさぐると、その感触は意外と柔らかい。
それを、慎重に袋から取り出した。
一番楽しみにしていた、ルビーからのプレゼント。
それは、彼女が予想もしていなかったものだった。
袋から出てきたものを見て、最初に声を発したのはオダマキ博士。
「おお‥‥‥懐かしい」
そう、それはとても懐かしいもの。
ピンクの地に、白いフリルのついたドレス。
それとお揃いのヘッドドレスに、可愛い靴。
ルビーとサファイアが初めて出会ったとき、彼女が着ていた服だった。
「な、何コレ!?あたしの‥‥昔の服!?」
「ほう。昔はおとなしい子どもだったそうだが‥‥こんな服を着ていたのか。なかなか可愛らしいじゃないか」
ナギが納得するようにうなずいた。
「しかし本当に昔の服と同じだなあ。サイズは今のサファイアにぴったりだ。ルビー君、これはどこで手に入れたんだい?」
「ボクが作ったんですよ、サファイアのために」
得意そうに答えるルビー。
それを聞いて、彼の母は得心のいった表情を見せた。
このところ、彼が一日中部屋にこもって夜遅くまで何やらやっていたようなので、心配になっていたのである。
「な、なして今さらこげん服作ったとよ!?」
サファイアは、まだ目を白黒させている。
「キミが昔遊んだあの子だって分かったら、なんだか懐かしくなってさ‥‥。記憶の限り忠実に作ったんだ」
「‥‥これ作るのに、どんくらいかかったん?」
「んー‥‥1週間ぐらい‥‥かな。生地とか探すのに結構手間取ったからね」
サファイアはその服をじっと見つめた。
過去の思い出が、蘇ってくる。
‥‥‥あの頃に比べて、自分は変わった。今の自分がいるのは、あの日ルビーと出会えたから‥‥そして、あの事件が起こったからなのかも、しれない。
自分を変えるきっかけになった人。そして、自分の大切なひと。
それが、今目の前で笑っているルビーだ。
「‥‥‥何?ボクに何か言いたいことでも?それとも、気に入らなかった?その服」
「え?あ、いや、そげんこつないっちゃけど‥‥」
「じゃあ気に入ってくれたんだね?」
「え‥‥うーん‥‥まあ、ね‥‥」
今の自分には、絶対似合わんやろうけど。
気に入らないと言えば嘘だった。
なぜって‥‥彼が、一生懸命作ってくれたものだから。
「キミも気に入ってくれたみたいだし‥‥よし、早速試着といこうか!」
「‥‥‥は?‥‥試着ぅ?」
試着‥‥その言葉の意味するところは、1つしかない。
「ちょ‥‥ちょっと待ち!誰も着るなんて言っとらんとよ!」
「気に入ってくれたんだろ?それに、ちゃんとサイズが合ってるかどうかも気になるし」
「う‥‥‥」
しぶるサファイア。
大人たちは特に反応を示さないが、どちらかというと全員ルビーの味方だった。
そして、ルビーのとどめの一言。
「‥‥きっと、キミに似合うと思う」
「っ‥‥‥!」
頬を赤らめるサファイア。
くるりとルビーに背を向けて。
「‥‥‥ちょっと待っとって」
そのまま小走りで、自分の部屋がある二階へと姿を消した。
数刻後、1階の部屋には、昔の服を身につけたサファイアの姿があった。
「Pretty!なかなか似合ってるよ」
サファイアが部屋に戻ってきてから、ルビーはずっと彼女の写真やビデオを撮っていた。
もちろんサファイア自身は恥ずかしくて仕方がないのだが、ルビーは心底楽しそうにカメラを回している。
「いやあ懐かしい。昔に戻った気分だ」
親たちはというと、懐かしさに浸っていた。
「あのころは、ルビーもやんちゃ坊主だったわねぇ」
「この際、彼にも昔の服装になってもらっては?」
ミクリの提案に全員が賛成した。
かくしてルビーも以前の服に着替え、サファイアの隣に並ぶ。昔のように、上着の前を開けて。
「本当に‥‥昔に戻ったようね」
「中身は、あの頃とは正反対だがな」
ルビーの両親が微笑む。
「よぅし2人とも、写真を撮るぞー」
嬉しそうにカメラを構えるオダマキ博士。
ルビーとサファイアは、しばし互いを見つめ合った。
昔のキミはおしとやかな女の子だった。
昔のあんたはたくましい男の子やった。
"今度会うときには、こんなに変わった自分を見てもらえるように‥‥‥。"
「キミとキミのポケモン‥‥‥強くなったね」
「あんたも、あんたのポケモンも‥‥強くて‥‥美しかよ」
にっこりと、笑顔を交わす。
「2人とも、博士がお困りだぞ」
ミクリが悪戯っぽく笑った。
再び、オダマキ博士がカメラを構える。
「じゃあ、撮るよ!」
「「ハイ!」」
数年前のあの日々から、すっかり変わった、2人。
でも互いの同じ想いは、変わらぬままで。
「はい、チーズ!」
- END -
ハッピーバースデー、サファイア!
そして大幅に遅れてごめんなさいサファイア!!
2週間近く遅れてしまったよ(滝汗)
んーと、今回は友人との会話で出てきた妄想をカタチにしてみました‥‥アハvv
だって裁縫の得意なルビーのことです、このくらいはやるでしょう。
文中の「ヘッドドレス」というのは、頭につけるロリータさんの飾りの一種です。
今回の壁紙はルビーを意識して赤です。
え‥‥ハピバサファイアじゃなかったのかって?
ダメですよそんなとこツッコんじゃv (ドッキリ;;)
〜スペシャルサンクス〜
友人Nさん。
忙しい中、本当にありがとうございました!
Nさんの協力なしにはUpすら危ぶまれるところでした。
‥‥いや、さすがに言いすぎです、ハイ。
今後は自力で頑張ります。
初出 2006.10.6.